さくら事務所会長 長嶋修氏とセンチュリー21・ジャパン社長が考える、不動産業界の「驚きの展望」
初夏を迎えた某日、センチュリー21・ジャパン(東京都港区)の園田陽一社長(写真左)とさくら事務所(東京都渋谷区)の長嶋修会長(写真右)の対談が実現しました。
フランチャイザーの立場である園田氏。昨年「悩める売主を救う不動産エージェントという選択肢(幻冬舎)」を出版した長嶋氏。両氏が考える、これからの時代における不動産業の働き方とは?
それぞれの専門性を深堀した「分業化」を進めるべき
長嶋氏(以下、長嶋) 今、不動産市場は大きな転換期にあります。デフレから30年という中で令和に変わり、コロナ禍があり、ウクライナ紛争が勃発し、4月には日本銀行の総裁も変わりました。また、昨今ではChatGPTに代表されるAI化やロボット化、あるいはテック化の進展などにより、私たちの仕事も大きく変わろうとしています。というより、すでに日進月歩で変わっているといったほうがいいでしょう。
園田社長(以下、園田) 日本の不動産取引は、基本的に1人の営業担当者が物件案内から契約、引き渡しまで担当するのが一般的です。しかし、中古住宅市場が日本よりはるかに大きい米国では、各々の専門家が各工程のサポートをするんですよね。つまり、検査や仲介、融資……それぞれ別の人が担当するわけです。日本のやり方だと、1人の担当者の負担が大きく、見方を変えれば不動産を取引する人へのサービスが手薄になってしまう部分もでてきてしまうと思います。果たして、日本の不動産仲介はこれでいいのだろうか……ということで、不動産エージェントの第一人者である長嶋さんと一度お話してみたかったんですよ。
長嶋 ありがとうございます。光栄です。私は30年ほど前から、日本の不動産仲介に疑問を持っていまして。というのも、物件情報を他社に開示しない「囲い込み」だったり、不動産営業担当者の重労働だったり……課題は多くありますよね。
権利を守っていく
長嶋 疑問だったのは、営業担当者が営業に徹しないのはなぜかと。なぜ、最初から最後まで1人で担当するのかと。法律、税制、融資などはそれぞれの専門家に任せればいいですし、資料作成だって担当者がしなければならないということはありません。
どんどん分業して、営業担当者は営業しましょうよ。それが不動産取引する人のためでもあるでしょ?……というのが、不動産エージェントをおすすめしている理由です。
園田 色々なことが変わる時代ですが、住まいが人にとって大切な資産であり、生活の基盤であることは変わりません。取り引きする人にとってどんなサービスを提供すればいいのか、どうすれば満足度が高まるのかを突き詰めていくと、1人ではなかなかできないですよね。やはり、それぞれの専門性を深堀して分業化していくというのは、時代を見ても不可欠だと考えます。
長嶋 日本の不動産仲介の仕組みは、長らく変わっていないんですよ。以前は宅建業の免許もありませんでしたし、仲介手数料の上限額もありませんでした。なんらかの縛りがないと、法外な手数料を取るような悪い人も出てきてしまうことから上限ができたわけですが、これは1970年のことです。もう半世紀以上、変わっていないんです。
一方、米国では80年代にはインスペクターや不動産エージェント、ローンオフィサーなど複数の専門家が1つの不動産取引をサポートする仕組みがほぼ確立しており、90年代には一般的になっています。現在は、不動産エージェントは売買に専念していますし、契約書や重要事項説明なんかもボタン一つで出てくるようなイメージです。となると、不動産エージェントに求められるのは、誠実さや街の詳しさなどよりパーソナリティな部分になります。日本も米国のようになればいいなぁと思っていますが、なかなかならない。いつの間にか、仕組みよりテクノロジーのほうが進展してきてしまいました。
園田 おっしゃる通りです。日本も、より個人の営業担当者、エージェントの良さを取り引きする人に見せていかなければなりませんよね。たとえば、髪を切るとき「美容室」ではなく「美容師」で選ぶ方が多くなりました。料金が高くても、技術がある方は人気があります。不動産業界も、このように「この人に仲介してもらいたい」という方向に行くと思うんですよ。
一方、美容室と不動産会社が違うのは、消費者保護の観点。不動産という高額で大切な資産を取り引きする人が法律で守られていくというのは、おそらく今後も変わりません。現状、消費者保護、あるいは被害者救済をするためには事業者側がそれなりの体制であることが求められます。もちろん、今後はこの点も変わるかもしれませんが、取引における消費者ーの権利を守っていくことも求められています。
働き方は、もっと自由になる
園田 働き手の自由度は、今後もっと上がっていくと思いますよ。どこで、誰と、どんな風に働きたいか。ここを重視する人が、益々増えていくはずです。法人は、働き手の意識に目を向けたビジネスの展開をしていかなければ生き残っていけないと強く感じます。この変化は、数年のうちに益々顕著になると思います。今からしっかりと考えていかなければ、不動産事業者、経営者は、時代の流れについていけなくなるのではないでしょうか。
長嶋 あらゆる業界でフランチャイズビジネスはありますが、とりわけ不動産の世界ってフランチャイズの看板やノウハウをもらっただけでは生き残れないでしょうね。
園田 そうですね。ただ、これは我々フランチャイザーの問題ではなく、経営者の問題であり、課題なんですよ。単純にブランド力のある看板を掲げるだけでは、今でも成功できないでしょう。センチュリー21の看板で集客はできても「その後」ですよ。実際にここで取り引きしたいと思ってもらえるかどうかは、経営者の考え方次第ですし、営業スタッフをどう教育するか次第です。今までもそうでしたが、これが今後さらに進むだろうということですよね。
長嶋 園田さんは、今後ますます加盟店や地域ごとの個性、そして個人の個性を出していく、認めていくというお考えですか?
園田 すでにセンチュリー21では看板、名刺、ジャケット以外はほぼ加盟店の判断で営業してもらっているんです。たとえば、コンビニのフランチャイズであれば、同じ内装、同じ商品アイテムで加盟店は営業を行うことになりますが、弊社の場合は、個々の加盟店の独自性をどんどん追求してくださいというスタンス。これまでもそのようにしてきたのですが、これから先、時代が変化していく中で、センチュリー21の強みをどう見せていくか。これは極めて面白い命題なんですよ。
ここまでのお話と重複しますけど、この命題に対する答えというのは、やはり「人」です。加盟店の経営者や働き手に対して、このフランチャイズをどう魅力的に感じてもらえるか。この施策を強化することが求められるでしょう。具体的にいえば「人と人とのつながり」になってくると思っているんです。私どものフランチャイズでいえば、加盟店同士の“つながり”ということですね。
中小規模の不動産会社の経営者には、彼らにしかわからない悩みや課題があるものです。私は社長という役割を負っていますが、大学を卒業してずっとサラリーマンをしているわけですから、オーナー経営者の気持ちを理解することには限界があるのではないかと思います。理屈ではわかっても、100%理解することは不可能なのではないか。そうであるからこそ、加盟店同士の“つながり”なのです。センチュリー21という同じ看板を掲げるオーナー社長たちのネットワーク。これこそが、これからの時代において当フランチャイズの大きな強みになると考えています。
価値観や人生に求めることも変わる
長嶋 なるほど。コミュニティ機能が強みだと。私も実は、これからの時代、“コミュニティ”に属しているということは、非常に重要になってくると考えているんです。今後、あらゆる可視化体系が崩壊していく中で、学校や会社、最終的には家族といった在り方まで崩れかねないと思っていまして。しかし、人は1人では生きられない。だからこそ、ある程度、価値体系に共感できるメンバーの集まりっていうのは、今後、人生を支える、幸福度を上げるための要素の1つになっていくのではないでしょうか。これはビジネスだけでなく、プライベートにも言えることだと思いますけどね。
そもそも「働く」という概念が、大きく変わっていくはずです。労働の対価でお金をもらうという以上に、やりがいや喜びを得るために働く人が増えると思います。残念ながら、今の不動産仲介の仕組みでは、誰もが誇りややりがいを持って働ける仕事にはなりません。そういう意味では、時代の変化を待たずに、早々にうまく分業化してしまったほうがいいと思いますね。
園田 まったくです。そういう時代が、すぐそこにあるのでしょう。そうなったときに、いかにして、人がやりがいを感じてビジネスできる環境作りをするのか。この命題に立ち向かうのは、繰り返しますけど非常に面白いんですよ。今後、公共の政策やシステムがどうなっていくかわかりませんが、いずれにしてもこの命題を解決するために民間企業が果たす役割は大きいはずです。
それにしても、こうして長嶋さんとお話をして、不動産業界で今後何が求められるか、何が大切なのかと考えると、行き着くところは同じなのだと感じました。
おすすめ記事
記事カテゴリ
タグ一覧
アーカイブ